大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(ラ)102号 決定

本件抗告理由の要旨は、第一点、原決定は抗告人の抗告を棄却する理由として、相手方が東京中野簡易裁判所で応訴すると、そのために莫大の費用と時間とを要し、訴訟の進行が遅滞すると判示しているが、これは当らない。訴訟が提起された以上当事者は管轄裁判所に出頭せねばならぬことは事理上明白であるし、債権者は債務の履行地を管轄する裁判所に債務の履行を求める訴訟を提起し得ることは民事訴訟法第五条の規定により十分に看取し得るところであるから、同法第三十一条は、相手方が管轄裁判所まで出頭するに要する費用と時間以外に、「損害が非常に増大する」「訴訟が著しく遅延する」との事由が存在するときに適用あるものといわなければならぬ。原決定のように、被告が東京中野簡易裁判所まで出頭するのに時間と費用がかかるとの理由で移送せねばならぬとすれば隔地者間の取引から生ずる訴訟はすべて債務者の住所地を管轄する裁判所に提起せねばならぬこととなり、民事訴訟法第五条の規定は、その存在理由を失うこととなる。しからば、原決定は法律の解釈を誤り、適用すべき民事訴訟法第五条を適用せず、適用すべからざる同法第三十一条を適用した違法が存する。更に原決定は、事実の認定を誤つている。即ち原決定は、相手方が東京中野簡易裁判所まで出頭する費用と手数と時間とに比すると、受移送裁判所が東京の裁判所に嘱託して鑑定等の証拠手続をする費用は軽少であると云つているが、これは被告側に有利に、被告側のために主張しているように見える。被告自身必ずしも東京中野簡易裁判所に出頭を要するとは限らない。訴訟代理人を選任すれば足りるので、その費用のみ負担すれば足りる。又東京中野簡易裁判所で審理すると、鑑定手続も一回で済ますことができ、(再鑑定は別として)各被告別に被告別の裁判所で鑑定手続をする必要がない。一被告の裁判所でなした鑑定は、他の被告の証拠に採用することができないから、本件では六回の鑑定手続をせねばならぬ事理である。被告方の鑑定申出及び再鑑定等の場合を考えると、証拠手続は更に倍加する可能性もある。右は鑑定をもつて立証する場合であるが、東京中野簡易裁判所で審理すると、五回の口頭弁論出頭で済むものが、各被告別の各裁判所に出頭を要するとすると、被告は六名であるから、三十回出頭せねばならぬこととなる。その他細別的に検討すると、東京中野簡易裁判所で一括して審理すると、迅速に事件を終結し得るにかかわらず、これを受移送裁判所で審理すると、著しく費用が増加し、非常に訴訟が遅延することが明白な事理である。原決定はかかる事実に対する判断を誤つている。しかのみならず、万年筆は、多数の専門業者の分業から成立するもので、それから専門の業者のいる東京において、各専門的立場から検討するのでなければ、真相の把握はできない。各受移送裁判所から嘱託により東京の裁判所で鑑定を求めるとしても、「如何なる点」「如何にして」鑑定を求めるかを定むるに困難を来し、問題の核心に触れることができない。従つて、この点から判断しても受移送裁判所で審理すると、訴訟が迅速に片付く、費用がかからぬとの結論が生れず、寧ろ東京中野簡易裁判所で審理すると、費用も時間も三分の一、五分の一で済むという結論が生れる。原決定はこの事実に対する判断も誤つている。更に本件につき東京中野簡易裁判所の移送決定がなかつたならば、今日既に弁論は終結されているであろうにかかわらず、抗告すら未だに終了せず、今後又継続されるであろうから、訴訟の遅延及び費用の増大は明瞭な事実であつて、これは争う余地のないものであるから、原決定は不法である。第二点、相手方たる被告は、答弁書を提出して応訴している。応訴による合意管轄は専属性を有するから、原決定は不法である。第三点、民事訴訟法第五条の規定あるにかかわらず、本件のように隔地者間の訴訟を移送することは、原告の有する訴権の行使を著しく困難にし、不円滑ならしめ、もつて国民の訴権行使を阻害するものであるから、原決定は憲法違反の措置である。第四点、故意に事実を、歪曲して民事訴訟法第三十一条の適用を強引に附會しようとする原決定に基く訴訟方法を進行すると、原告たる抗告人は経済上の利益を非常に害され、結局訴訟に勝つたとしても、何等の利益も得られないという結果も予想される。原告たる抗告人がその経済上の利益を害されることは、財産権の侵害であるから、原決定は憲法違反の措置と考える。以上の次第であるから、原決定を取消し、更に相当の裁判を求めるため、再抗告に及んだというにある。

しかし、原決定によると、原審は、本件訴訟が、民事訴訟法第五条により、義務履行地である抗告人の住所地を管轄する東京中野簡易裁判所の管轄に属すると共に、他面各相手方の住所地を管轄する裁判所の管轄にも属することを認め、同法第三十一条は、かかる場合に、同条所定の著しい損害又は訴訟の遅滯を生ずる事由があると、本来管轄権を有する裁判所が他の管轄裁判所に訴訟を移送し得ることを規定したものであつて、応訴管轄にかかわらず移送し得るものと認め、本件訴訟につき抗告人と各相手方の事情を比較考量した結果、本件訴訟を東京中野簡易裁判所で審判するよりも、各相手方の普通裁判籍所在の裁判所でそれぞれ審判する方が、各相手方に対し著しい損害を与えないのみならず、訴訟の遅滯を軽減するものであると認め、東京中野簡易裁判所のなした移送決定を是認したのであつて、右認定には、抗告人のいうような違法は少しもない。従つて、論旨第一、二点は採用に値しない。次に論旨第三、四点はいずれも抗告人側の利益のみを考慮して移送決定の不法を主張するものであり、民事訴訟法第三十一条所定の著しい損害又は訴訟の遅滯を生ずる事由があるかどうかは、当事者双方を包括的に比較考量して決すべきものであることは、上来説示したとおりであるから、論旨はいずれも採用することができない。さすれば、原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないから、主文のとおり決定する。

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